十歳のきみへと明日をつくる十歳のきみへの違い
医師の日野原重明さんが書かれた「十歳のきみへ-九十五歳のわたしから」は、国語の教科書にも取り上げられ、書店でも目立つところに置かれていることが多く、いま日本の小学校中学年から高学年の多くの方が読む本だと思います。
わが子の十歳の誕生日に、この本を贈りたい。
そうお考えになる親御さんも多いのではないでしょうか。私も以前に「十歳のきみへ-九十五歳の私から」を図書館で借りて読み、とても感動して、自分の子どもに贈りたいと思っていました。
そうして、子供が十歳になる前に、書店でこの本をチェックしたところ…
「明日をつくる十歳のきみへ-一〇三歳のわたしから」という本があるではないですか。
九十五歳の時に発行された「十歳のきみへ」からさらに数年たち、百歳を超えた日野原先生が、新しい本を出されていたのです。
つまり…
- 「十歳のきみへ-九十五歳のわたしから」
- 「明日をつくる十歳のきみへ-一〇三歳のわたしから」
という二つの本があるのです。どちらも著者は医師の日野原重明さん、そして出版社も同じ冨山房インターナショナルです。
私は、その時あまり深く考えず、新しい方を選び購入しました。九十五歳より百三歳の方がなんとなくすごい気がしましたし、なんといっても新しい、いまの日野原先生の思いが込められている本の方がいい、そんな理由で選んだのだったと思います。
そして子どもに贈り、自分でもまた読んでみました。そして、あれ…?と思いました。以前読んだ「九十五歳のわたしから」とは内容が違っていることに気づいたからです。
「一〇三歳のわたしから」の方も、子供にぜひ読ませたいと思えるすばらしい内容の本なのですが、「九十五歳のわたしから」とはまた別の本だったんだなと気づいたのです。
私の勝手な思い込みだったのですが、「一〇三歳のわたしから」は、「九十五歳のわたしから」の内容を含み、新たに日野原先生がその後にお考えになったことを書き足した「改訂版」みたいなものだろうと思ってしまったんですね。
どうもそうではなく、どちらかというと「続編」というような、「九十五歳のわたしから」とは重なる部分がありながらもまた新たに別のことを伝えようと書かれた本が「一〇三歳のわたしから」であったようです。
「明日をつくる十歳のきみへ-一〇三歳のわたしから」のはじめのことばには、こんな文章があります。
「あれから八年たって、わたしは子どもたちに少しちがうことを言いたくなりました。」
2冊の本の違いを確かめたくなり、「九十五歳のわたしから」の方も購入して読み返しました。
どちらを購入したらいいのか迷う方もいらっしゃると思いますので、今日は2つの「十歳のきみへ」の違いを、この記事にまとめてご紹介したいと思います。
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「十歳のきみへ-九十五歳の私から」はこんな本です
2006年に発行された、「十歳のきみへ-九十五歳の私から」は、ベストセラーとなり、国語の教科書にも取り上げられています。
著者の日野原重明(ひのはら しげあき)先生は、1911年生まれのお医者様です。100歳を超えた今でも、聖路加国際病院名誉院長などのお立場で、お仕事で忙しい毎日を送られているそうです。
その日野原先生が、ご自身の病気や仕事、戦争の体験などから築いてこられた、命についての考え方を、易しくお話してくださるのがこの本です。十歳くらいの子供さんたちに、命とは何か、人は何のために生きるのかを、初めて考えるきっかけを与えてくれる本です。
本の概要
- 出版社:冨山房インターナショナル
- 2006年発行
- 著者:日野原重明
- 挿し絵 はらだひでたけ
もくじの紹介
- 詩/ぼくが十歳だった時のこと
- はじめに-自己紹介
- 寿命ってなに?
- 人間はすごい
- 十歳だったころのわたし
- 家族のなかで育まれるもの
- きみに託したいこと
- あとがき-この本を読んでくれたきみと、きみのお父さんとお母さんへ
- 小学生から日野原先生への手紙と読書感想文
全200ページ
本の内容
この本は、日野原先生が書かれた詩「ぼくが十歳だった時のこと」から始まります。
この詩で、子どもの頃にご自身やお母さんが病気になった時の体験、おばあさんを亡くされた時の体験を、医師になったいまの立場から振りかえっておられます。
これを読むと、日野原先生のお人柄に親しみと尊敬の念を感じずにはいられず、この方のお話にぜひ耳を傾けたいという気持ちになります。「十歳のきみへ」を象徴する詩だと思います。
いのちとは何か、人が生きる目的は何かを考えようとする本といったら、何だか難しそうに思えるものですが、この本を読むと、それが易しく説明されていることに驚きます。
目的をもって行動することの大切さを理解し始める時期の子どもたちに、一番大きな目的は何かを、考えるきっかけをくださる本だと思います。
「きみに託したいこと」という章では、戦争をなくし平和な世界を作ってほしいと、子どもたちの世代に願いを託されています。どうしたらそれができるかを、子どもどうしのケンカをたとえとして説明されています。これも本当にわかりやすいのです。戦争をやめるにはどうしたらいいか、そして、どうして戦争をやめるのが難しいのかということが、子どもたちにもよく想像できるのではないでしょうか。
最後に、この本を読んで小学生が書いた、日野原先生への手紙3通と、読書感想文6作品が紹介されています。読書感想文の方は、コンクール受賞作の中から選んで掲載されています。読書感想文の題材としても、この本はとてもいいと思います。
切り絵風のノスタルジックな挿し絵も、内容に合っていて素敵です。
「明日をつくる十歳のきみへ-一〇三歳のわたしから」はこんな本です
こちらは前作から8年たった2015年に発行された本です。前作から持ってきた文章はおそらくなく、全文書き下ろしだと思います。
本の概要
- 出版社:冨山房インターナショナル
- 2015年発行
- 著者:日野原重明
- 挿し絵 たかしたかこ
もくじの紹介
- はじめのことば
- 「いのちの授業」でわたしが教えていること
- 時間の使い方を知ってください
- 目に見えないものの大切さ
- 科学のよい使い方と悪い使い方
- いくつになっても夢をもとう
全125ページ
本の内容
こちらには詩「ぼくが十歳だった時のこと」は載っていません。
挿し絵も「九十五歳のわたしから」とは異なります。子供のいる風景が優しいタッチで描かれています。
先生が小学校で行っている「いのちの授業」で実際にどんなお話をされているのか、それに対する子供たちの反応はどうであるのかが、詳しく書かれています。これを読むと、いのちの授業を自分も実際に受けているような気がしてきます。
そして、「九十五歳のわたしから」と共通する、先生の時間といのちについての考え方が書かれています。以前の本になかったエピソードも含まれています。
本の後半は、この考え方を、実際の勉強や生活の中でどう使っていくか、いわば「実践編」ともいうような内容になっています。いま十歳の子どもたちに、これからこんな気持ちで生活し伸びていってほしい、という先生の願いがこめられた文章です。
世界の平和について、子供どうしのけんかを例に語られていた「九十五歳のわたしから」とは異なり、発電、自衛隊、災害、戦争…日本や世界で大人たちが頭を抱えて悩んでいる様々なことがらについて、具体的に語られています。
最後に、一〇三歳になっても夢を持ち続け新しいことに挑戦しているご自身の今のお気持ちを書かかれています。
ふたつの「十歳のきみへ」の違いをまとめると
「九十五歳のわたしから」は、命や人生についての考えを、十歳の子どもたちが理解できるよう、かみくだいて易しくお話してくださる本です。
子どもの心にしみこむような、優しいながらもきっぱりとした、説得力のある文章です。
命とは何か、人生とは何かを、初めて考える子供たちにふさわしい本だと思います。
「一〇三歳のわたしから」の方でも、命や人生についての考え方を、子どもたちが理解しやすいような言葉で、以前の本には書かれていなかった体験談も多くまじえてお話してくださっています。
こちらではさらに、今の社会や実際の子どもたちの暮らしの中に、そういった命についての考え方がどうかかわっているのかを具体的に示すことに、ページ数を費やしています。地球や人間の社会に起こっている様々な問題を示して、子供たちが考え、実際に行動を起こすきっかけを与えてくれるような内容です。
子どもたちに期待するものとして、「九十五歳のわたしから」の方では、世界の平和について書かれていました。この一つのことにしぼってじっくりとお話してくださっています。
それが「一〇三歳のわたしから」では、科学や政治の様々なことについて、日本や世界がどういう方に進んでいって欲しいと先生が思われているかが、具体的に書かれています。1つ1つは短く、たくさんのことについて見解を寄せられています。
「九十五歳のわたしから」の方は、一本の太い軸が通っている感じがします。
「一〇三歳のわたしから」は同じ一つの軸から、世界へ、宇宙へと話題が枝分かれしていくイメージを持ちます。
結論・まずは「九十五歳のわたしから」
いのちについての一貫した考えにもとづいて書かれた2つの本ではありますが、このように、内容には違いがあります。改訂版のように、新しい方1つだけ読めば用が足りる、というものではないのですね。
「一〇三歳のわたしから」の方だけを読んでも、日野原先生の、命についての考え方を理解することはできると思います。でも、できることなら、それをもっとくわしく教えてくださっている「九十五歳のわたしから」を先に読んだ方が良いと思います。
読む順番としては、先に「九十五歳のわたしから」、その後に「一〇三歳のわたしから」を読むのがおすすめです。どちらか一冊だけを読むとしたら、やはり、詩「ぼくが十歳だった時のこと」から始まる「九十五歳のわたしから」です。
「九十五歳のわたしから」を読むと、日野原先生がその後「もっとちがうことを言いたくなった」と思われて書かれた、「一〇三歳のわたしから」の方も読んでみたくなる方が、きっと多いことでしょう。
命についての考え方を理解した上で、その実践編ともいえる「一〇三歳のわたしから」を読むことを、私からはおすすめさせていただきます。
うちの子が読んだ反応は
最後に、小学校4年生のうちの息子がこの本を読んだ時の反応を書いてみたいと思います。
ササッと一読して「とてもいい話だった!」と言っていました。なんとなく「あまりピンと来ないが母さんにはそう言っておいた方がいいだろう」と思っているような感じで(苦笑)
深く感銘を受けたわが子が「ぼくもお医者さんになる!」(目がメラメラ)というような展開は、残念ながらありませんでした(笑)
いつかまた読み返そうと思ってくれるといいのですが。そしていつか自分の子供が十歳になる時に、この本のことを思い出してくれたら…と期待したりするのはヤボなのでしょうねやはり。
私はこの本に出会えて、本当によかったです。
自分が生きている世界に、日野原先生という方がいらっしゃること、そしてこういうすばらしい本があることが、とてもうれしく、心強く思えます。